福島県の双葉町を含む3町で、避難指示が一部解除された、というニュースを見た。双葉町の避難解除は初めてらしい。
2011年から、もう9年たった。
爪痕は残ったままだが、被害地域を除いて、だんだんと、人々から震災の記憶が薄れていっていることは、まぎれもない事実だろう。
私も同じだ。
だが、「双葉町」というキーワードを聞いて、ある人を思い出した。
2011年、当時。私は、通販事業の総責任者だった。コールセンターのまとめ役もしていた。
あの日、大震災が起こり、商品を送るどころではなくなり、(それでもクレームを言ってくる人がいたのには、驚いたが)
後日、被災したエリアのお客様リストを作った。
その中に、双葉町の方もいた。
お客様は基本、定期購入を利用していたので、一応、契約は続いており、確認の必要があったが、
さすがに、そんな場合ではないだろう、ということで、しばらく静観していた。(余談ではあるが、災害時に、この安否確認をどのタイミングでするか、誰にするか、が、いつも悩みの種だった)
やがて、福島県の一部のお客様からも、電話が来るようになったので、もしかしたら、連絡がつくかもしれないと考え、双葉町のお客様に電話をかけた。
たしか、70歳以上のおじいさんだった。
長年、商品を愛用してくれて、饒舌ではないが、明るく感想を話してくれた。福島弁が聞き取れず、何度も謝った記憶がある。
期待を込めて、受話器を手に取る。コールする。
電話は、つながらなかった。
コールのみ、ではなく、「このエリアの電話は使用できません」という聞きなれないガイダンス。
全身の血が引いて、現実に戻された感覚を、よく覚えている。
そうか。そうだよな。
もしかしたら、元気な声を聞かせてもらえるのでは、というのは、とても甘い願望だったと思い知らされた。
心にフタをして、顧客データの、DMや連絡を停止するフラグをONにした。
それから数年。
休み明けに出社した私に、オペレーターが喜んで報告をした。
〇〇さんから連絡ありましたよ!
えっ、本当に!?
他県に避難していたその方は、ひょんなことから、ウチのことを思い出し、定期購入のことが気になって、わざわざ電話してくれたそうだ。
嬉しかった。
無事だったこと。そして、たかが、一商品の購入先を、そこまで気にしてくれていたことも。
いまさら、ということで、定期は再開されなかったが、気にはならなかった。
むしろ、それでも連絡してくださったことが嬉しかった。
通販、という仕事をしていると、人がデータに見える時がある。
しかし、それは人なのだ。ひとり、ひとり。
人格があり、優しさがあり、命がある。
分析という仕事をしていると、つい頭から消えそうになるが、忘れてはならないと、時折、胸に刻んでいる。
あの、お爺さんは、双葉町に帰るのだろうか。そうでないとしても、今、元気に、このニュースを聞いてほしい、と思った。
では。