一般消費者向けの商売をやっていると、客からのクレームというのは避けて通れない。
私は数ある仕事でも、このクレーム対応というのが一番嫌いである。クレーム対応専門の部署で働ける人間を、心から尊敬する。
ガンジー並みの人格者か、逆に自分以外をゴミとしか思ってない人間でなければ、とても精神がもたないだろう。
さて、と言いつつも、仕事なので、嫌だ嫌だでは通らない。仕方なく、クレーム報告を聞き、クレーム報告書を書くわけだが、ある日、これに上から物言いがついた。
内容は、「クレーム報告書」というタイトルを今後変えるように、というものだった。
特にこだわりがあるわけでもなし、ではどうするのか?と聞くと、
「お申し出聞き取り表」にしなさい、とのことだった。
何かの冗談かと思ったが、どうやらマジらしい。詳しく聞こう。
まとめると、
・取引先(国民のだれもが知ってるような大企業)から、お達しが来た。
・その内容によると、「クレーム」という言葉は、否定的な意味にとれるので、お客様からの貴重な意見に対し、その表現はふさわしくない
・なので、今後はクレームという言葉は原則禁止。「お申し出」と言い換えるように
という内容だった。
加えて、このお達し自体、PDFで30ページを超える分厚さだったから、恐れ入る。人間ひまになると、くだらないことばかり考えるものだ。
唾を吐きかけ、一笑に付すのは簡単なことだが、一応、冷静に考えてみよう。
まず、「クレーム」という言葉に否定的な意味が含まれる、という意見については、日本限定で考えれば否定はしない。
否定はしないが、だからどうした、が私の意見だ。
クレーム調査報告というのは、あくまで社内で回覧、保管する書類である。おそらく、どこかのお偉いさんは、
・表に出る、出ないの問題でなくお客様を否定する言葉を使うべきではない
・万が一、内部の犯行でその書類が表に出て、叩かれるのを恐れている
などといった点を危惧しているのかもしれないが、そんなもの、木を見て、森を見ずとしか言いようがない。
お客様に否定的なイメージを与える行動や文章なんて、それこそ社内のいたるところに存在する。そんな言葉狩りをしたところで、対して影響はない。むしろ、企業でクレームという言葉が使われるのは、まだまだ市民権が強い分、ほかのことよりも、影響力は小さい。
さらにいえば、社内で集計するときに、無駄な手間が発生する。
どれだけ言いつくろった所で、会社から見れば、「いい意味のクレーム」「悪い意味のクレーム」の両方が存在するのだ。それを、いいも悪いもない、お客様の声は「お申し出」であると、きれいごとを抜かした所で、集計する人間も、会議で報告を聞く人間も、無駄な手間が増えるだけである。
外部に対して公開するときのみ、表現に気を遣えばよいではないか。
ささいなリスクを、本来のもの以上におびえ、本質を逃す仕事はやるべきでない。そう思った一幕であった。