人生で初めて、引き抜きのオファーを受けた

会社やめるまでの軌跡

いよいよ最終出社日まで、あと一か月。

今までお世話になった会社と、今後も引継ぎ業務が発生する会社のリストを作り、各社に挨拶をしている。

これは個人の考えによると思うが、私の場合は、CCなど使わず、必ず一人一人にあてて、メールを書いている。

そして、テンプレ通りではない、その人にしか分からない仕事の思い出や、その人にだけ送りたい一言を添える。

おそらく相手からすれば、大した違いはないだろうし、一緒に送れば、相手が上司に報告する手間も省けそうだが、何となくなんか違うな、と思い、そうすることにした。

ほとんどテンプレで返す人もいれば、手紙のように長文で返してくる人もいた。

ここだけの話・・・と、自分も実は迷ってる的な話を暴露する人もいた。

退職は人生で二度目だが、最初はケツに卵の殻がついてるような若造の時だったので、こんな風に、いろいろな思いを巡らせながら、退職の挨拶をするのは初めての経験だった。意外と悪くない。

というか、独立すると伝えると、皆、「こう言っていいのか分からないが・・・」と前置きしたうえで、「おめでとうございます」と祝福してくれるのである。これがいい。社内では基本喜んでもらえないので(当たり前だが)。

しかし連日、やる気もない、努力もしない人たちへの引継ぎで、精神が摩耗してきているので、取引先とはいえ、このように応援の言葉をいただけると、少し、背中を押された気がして、心地よい。ありがたいことである。

そして、先ほど、さらに嬉しいことがあった。

退職を伝えた取引先の営業マンが、「夜に電話してよいか?」と聞いてきたので、内密な話だなと、少し緊張しながら電話を待った。

先日、後任と一緒に引継ぎの挨拶をしたのだが、やはり仕事のできない人間であることが見抜かれて心配になったか?などとモヤモヤしていると、電話が鳴った。

「早速、こんなこと言っていいのか分からないのですが」と来たので、「はい・・・」と次の言葉を待ったところ、

「実はさぼてんさんが退職すると専務に伝えたら、ぜひウチに来てほしいと言っておりまして・・・」

おお、これが噂に聞くヘッドハンティング。引き抜きというやつか・・・。人生で初めて受けた。

もちろん、独立するのでOKするわけにはいかないのだが、正直、とても嬉しかった。

こちらは日本の最果てのド田舎。相手は東京の中心。さらにウチの10倍はでかい企業。そんな会社の専務が私を欲しいといってくれている。

さらに、その理由の一つが、「自分の頭で考えられる人間が欲しい」からと聞き、少し感極まってしまった。

この言葉を、経営者から言われるほど、嬉しいことはないだろう。

特に、毎日、引継ぎ作業で、ぼろくそに言われているから猶更だ。

自分はそんなに弱い人間とは思っていなかったが、それでも、誰かに必要とされるのは、これほど嬉しいものなのだな、と改めて感じた。

これからも、そう思ってもらえるように、さらに腕を磨いておかなければ。と決めた私は、やはり根っからの社畜なのかもしれない。

この快感を味わいたいと、フリーランスになってから、仕事中毒にならないように気を付けよう。そう思った。