リクナビ問題。考えるべきは、法よりも、モラルよりも、双方のメリットを前提としたシステムだと思う。

WEBの仕事話

リクナビが就活生のサイト内行動を分析し、 独自AIで「内定辞退率」を算出して、企業に売っていた件が明るみとなり、今、問題となっている。

ホンダが購入してただの、ではトヨタも怪しいだの、忙しいことである。

個人的には、2週間もすれば、殆どの人間はすっかり忘れるのではないかと思うが、一応、WEBの仕事に関わっている立場から、この件について自分なりの考察をしてみたい。

まず、今回の件で、問題提起されているのは主に二つある。

一つは、「法律違反でないか」という遵法精神に基づく意見。

もう一つは、「これは信用スコア社会への前兆でないか」 という、社会的不安についての意見である。順に考えたい。

まず、法律違反でないか、という点については、ネットで散々騒がれている通り、色々と頂けない点があったのは間違いない。

個人情報保護法に関してもそうだし、EUから国際的に推進されているGDPR(一般データ保護規則)の基準に照らしても、アウトであろう。

ただ、では法的に問題ないやり方で同意をとっていたら、この件は問題化しなかったか?といわれるとおそらくNOだろう。

現行法に問題のない形で、サイトのフォームや、セキュリティポリシーが整備されていたといても、おそらく、殆どの人間が意味を考えず、ポチっと同意するはずだ。

今、通販で商品を購入する時、個人情報の確認について、全て内容を精査してから「同意」ボタンを押している人間が、一体何人いるだろうか。

勿論、全員目の前で同意書を書かせる、とかいうレベルなら、皆、納得の上で、個人情報を渡すだろうが、そんな非現実的な法が成立するはずがない。

なので、この点については、「法律違反かもだけど、そこ突っ込んでも仕方なくね」というのが、私の感想である。

ただ、GAFAを中心とした巨大企業の個人情報収集は圧倒的で、段々と歯止めがかからなくなる恐れがあるので、EU推進のGDPRを基準として抑止力にしていくのも大事なことだし、日本もそれに習い、法整備を固めることも、大切だと感じている。

また、買う会社が悪い、という意見もあるが、これも個人的には同意しかねる。大組織にモラルなど期待するだけ無駄というのが、私の人生観だ。

次に、「信用スコア社会へ進むことへの不安」についてだが、これは結論からいえば、先進国は遅かれ早かれ、そういう社会になっていくと思う。

中国で、既に人々の生活に深く浸透している「ジーマクレジット」ほど、あからさまではないかもしれないが、結局、実態としては近いものになるのではないだろうか。企業や国という組織のメリットから考えれば、そういう道を選んでいくのは自明である。

日本はそんなことない!と、理想論ならいくらでもいえるが、それが実現できるようなら、日本はそもそも西洋化の道を選んでない。

私個人としては、全てがスコア化される社会自体は、別にいいのではないか、と思っている。
正確には、人間とAIが進化し続ければ、そりゃそうなるよね、という感じだ。

それに、個人情報の分析も、ようは使い方である。

私がよく知る通販の現場でも、既に個別ユーザーの詳細な行動分析は、当たり前のように行なわれている。

私の場合、自社サイトへ質問してきたユーザが、今まで、サイトのどのページを、どれくらい見ているか(例えば、Q&Aなどは既にみているか)、さらに分かる範囲でだが、Googleアカウントなどに紐づいた年代、性別、嗜好(オーディエンス)などの属性データを、全て把握したうえで、お客様に対応している。

これも、そんな事実を知らない人からしたら、気持ち悪い話だろう。

だが、別にのぞき見したくて、こんなことにコストをかけているのではない。こうした方が、よりユーザーに的確な回答を、ワンタイムで返せるからだ。

誰しも、今まで企業サイトで質問して、

「そんなことは分かっている」

「それを調べた上で質問しているんだが?」

「こいつ物分かり悪いな!」

と、イライラした経験はないだろうか。

ウチとしても、ユーザーにそんなストレスと時間を与えたくないので、コストをかけ、分析データを有効に使うわけである。

今回のリクナビの件は、個人情報をとられた就活生側に、何のメリットももたらさない(少なくともそう見える)ことが、余計問題を大きくしたのだろう。

企業側からすれば、何故、内定辞退したのか、ということを詳細に分析することで、今後、より就活生に魅力的な情報、サービスを提供していくことが出来る、というかもしれないが、それを信じるのは、正直村の住人くらいである。

個人情報を利用し、AIで解析するのは、現代の文化を享受する以上、ある程度仕方がない。

だが、少なくとも、利用する側、される側、双方メリットがあるサービスで、それは行なうべきである。

今回の事件は、それを忘れないように、自身への戒めとしたい。