おかしい。
これでも退職を決めるにあたり、今までの会社に対する思い、今後の人生についての不安、希望、色々と悩みぬいた末、決断した。
確かに、世間は転職やフリーランスの増加に動いているが、それでも15年勤めた会社を辞めるという決断は、決して軽くはないはずだ。
直属の上司、社長、家族との間では、涙と血の会話があった。
通すべき筋は通したので、ついに友人にも、退職を告げる時がきた。
事前に、退職してフリーになる宣言をした先人のブログを見ていて、
多くの友人が、
「人生はそんなに甘くない」
「まだ間に合うんじゃないか」
「この先、あてはあるのか?」
と心配してくるのを知っていた。
なので、私も当然、その反応を予想していたのだが・・・
第一声が、赤い彗星シャアのLINEスタンプで、「りょーかい」だった。
続いた言葉が、
「じゃあ、ドラクエやり放題やん」
である。
おそらく、先日、ドラクエウォークなるスマホゲームのベータ版が出たらしいので、そのことだろうと思われる。田舎は対象外なんだよ!
ふぅ、とため息をつき、こいつは大学の頃からこういう奴だった、と気持ちを片付けていると、
次の友人からは、
「生涯フリーマン宣言おめ」
である。
少し目頭を押さえる。
誤解ないようにいっておくが、これらの友人たちは、
その殆どが、東証一部上場企業か、官公庁に長年勤める、世間的には「立派」と言われる人たちである。それなりの役職にもついている。同期で、地方の中小企業に勤めたのは私くらいのものだ。
にも、かかわらずこの反応。なお、この後も、グループLINEの返信が続いたが、まぁどいつも、ほぼ似た様な反応だった。
んじゃ、飲みの口実ができたな。細かいことはそん時聞くわ!的でノリでLINEは終わる。
呆れてもう一度溜息をつき、スマホをしまうと、少しほくそ笑んでいる自分に気づいた。
そうだった。
長年、会社に締め付けられて、自分を忘れていた。
こんな風に、たとえどんな重いことが起きても、笑って跳ね飛ばすこいつらが好きだったから、自然と友人になったのだ。
私自身も、きっと、逆の立場であれば、同じ反応を返しただろう。
真面目な人なら、目を顰めるかもしれない。
でも、私はそんな教科書のような、建前の人間関係はいらない。気のおけない連中が大好きだ。
これから退職し、全国にいるこいつらに、一人一人会いに行くのが、今から楽しみで仕方がない。
これもきっと、これからの長い人生において、きっと糧になると思う。
一番の財産は、友人。そう思い、誰にともなく盃を傾けた夜だった。