先ほどのことである。
いつものように温泉に入るため、男湯の扉をあけ、浴場に入ったところ、
「ロダンの考える人」になっている、お爺さんに出会った。
これが椅子に腰かけているなら、様になるのだが、風呂から出た直後の所で、こんな形で固まっているのである。
「大丈夫ですか?」
と声をかけてみたが、
手をふり、大丈夫です、と相槌をうつので、まぁ少し、ふらついただけだろうと、そのままにし、体を洗いに行った。
5分後。
頭も、体も、ピカピカになり、さて、湯船につかるか、と風呂場に向かったら、
お爺さんは、まだ「考える人」状態だった。
心なし、うつむき加減が深くなっている気がする。
男湯には、このお爺さんと私の二人だけ。他に人はいない。
これは流石に・・・と、もう一度、声をかけようとしたところ、
「ちょっとあんた!大丈夫!?」
と、浴衣姿の女性が、ガラッと男湯の扉を開けた。
そして、躊躇なく中に入り、男性に話しかけ、肩をかつごうとしている。
男性は、私が声をかけた時よりも、柔らかく「大丈夫、大丈夫」と答えていた。
女性一人で男性を運ぶのはキツイだろう。
旅館の人を呼んだ方が良いと思ったが、もう今更、と思い、
「手伝いましょうか」と、全裸(タオルなし)で女性に声をかけたところ、
女性も「ああ~助かります」と、笑顔で答えた。
そして、全裸(タオルなし)の中年と、浴衣の女性、おそらく奥さんだろう方と、両肩をかつぎ、脱衣場に男性を運んで寝かせた。
男性の意識は結構しっかりしていたが、持病とかもあるかもしれない。
旅館の人を呼んだ方がいいですよ、と告げ、私は湯船に戻った。女性は何度もお礼を言っていた。
男性が無事だったことに安堵し、湯船につかりながら、あることを考えていた。
それは、女性の「積極性の強さ」、である。
私の周りだけかもしれないが、男性は、弱っている人に手を差し伸べ、「いいよ、いいよ」と言われた時、そこで止める人が多い気がする。
勿論、不正解ではない。
だが、女性は、「NO」と言われても、そこからさらに、手を差し伸べる人が、多いように思う。
それを、人は、「おせっかい」というのかもしれない。
しかし、先ほどの老夫婦のように、「おせっかい」がなければ、死ぬようなことも、人生にはある。そうなれば、取り返しはつかない。
いや、本当に嫌がってるかもしれないでしょ、と何も知らない第三者はいうかもしれないが、自分がその立場として、遠慮することはあっても、善意を本気で嫌がる、というケースは本当に少ない。
私は記憶にないし、仮にそんなケースに当たるとして、そんなに困ることだろうか。
やりすぎたな、空気よめなかったな、と謝れば、それでおしまい。だれも損してない。
そもそも、そんなことを気にして、女性は手を差し伸べていないと思うが。
まさに、考える前に体が動く、という奴だろう。
男性にも勿論、そういう人はいるが、私の観測範囲では、女性に、その傾向が強いように感じる。
ぜひ、今後も、見習いたいと、思った次第である。
なお、今回のケース。
性別が逆だったら、美談ではなく、痴漢行為で終わるので、ちゃんと旅館の人を呼びましょう。
世の中、不条理。
では。