経営者に「理念」があるかで、ついていくか決めよう

会社やめるまでの軌跡

仕事というのは、大前提として、金を稼ぐことを目的としている。

そこに「やりがい」は、必ずしも必要ではないと思うが、私にとって、これだけは譲れないというものがある。

それは理念である。

今の社長が、その理念を失ってると感じたのは、いつの時だろうか。

14年前、初めて出会った時から、無茶苦茶な人なのは変わっていないが、当時は、まだ少し、創業時から持っていたソウルを、かろうじて抱えていたように思う。

いや、思い出は美化されるものなので、その時はもうなかったかもしれない。それは分からない。

ただ、確実に社長に失望した瞬間は覚えている。

それは、商品に価格の表示を入れろ、と指示が出た時の話だ。

何が問題なのか分からないと思うので、少し詳しく説明する。

私は健康食品を扱う部門で働いていた。

具体名は避けるが、かなり高額な商品で、正直親には勧められない商品だったが、社長が親しくしている経営者や、セレブ、一部の有名人には、社長の営業力もあり、そこそこ売れていた。

しかし、会社全体から見れば、通販事業で一般の方向けに販売している量の方が、はるかに多かった。

そんなある時、社長から、怒号と共に指示が出た。

なぜ、商品に価格を入れてないんだ!お前たちは揃いも揃ってアホなのか!

と。

これについては、そもそも通販限定商品なので、元々入れていないだけだったが、その後、きちんと理由が生まれていた。

それは高額の健康食品の場合、親のために買う、というユーザーが一定数いて、その人たちは、基本的に、「親に価格を知られなくない」のだった。

だから、あえて価格を入れるようなことはしていなかった。また、重ねていうが、通販限定商品なので、その必要もなかった。

だが、社長は納得しない。とにかく入れろの一点張り。

何とかなだめて理由を聞いた。そして愕然とした。

きっかけは、とある知り合いの社長の一言。

「こんなに高価な商品なんだから、商品に価格は入れるべきだよ」

と言ったらしい。余計なことを。

それでスイッチが入ったウチの社長が、烈火のごとく怒り、

「私は前からそう思っていたのに、お前らが指示を聞かなかった」

と、いつもの創作を始めたのである。

ちなみに、一度もそんな指示を受けたことはない。

あまりに、あまりな話なので、改めて社長には説明した。

うちの商品を買っている人には、こんなお客様がいる。そんな人たちにとって、価格を入れるというのは、望んでおられることの逆をすることだと。

しかし、結果はNO。

社長から出たのは、

「そんなことより、この商品が安物と思われる方が問題だ」

という発言だった。

この時、私はこの社長は理念を完全に失っていると感じた。

彼にとって、自社の商品は、周りの社長にドヤるためのシンボルであり、誰かのために役に立ちたい、とう、自身の理念を実現させたものではないのだ。

その時から、今まで何とか自分の中で弁護してきた社長の行動が、全て霧散したように思う。

結果、色々あり、私は現在、退職の道を選んだ。

経営者となる二代目には知っておいてもらいたい。

社員は給料もむろん大事だが、その経営者の理念を見て、ついていくか決めているということを。

できれば、今の会社の二代目に、その精神が培われることを願ってやまない。