健康食品の原価率に突っ込むのは、的外れである

食と健康

以前、私は「健康食品はこの世に必要ない」という記事を書いたが、先日、その想いを強くする事件があった。

癌に対する効果をうたっていた、とある健康食品会社の社長が、薬機法違反で逮捕された。

SNSをざっと見ると、この会社に対する罵詈雑言であふれていた。特に、30億円近い売上をあげていたことや、原価3000円の商品を5万で売っていた、ということが批判の的になっていた。数字のインパクトは強烈だ。

「そんな粗悪品を高値で売りつけるなんて・・・なんてひどい会社だ!」

とか、

「イカサマ健康食品で、人の命を食い物にするなんて許せない!」

という意見が相次いでおり、人として気持ちは分かるのだが、

長年、健康食品業務に携わってきた立場からすると、少々意義を述べたい気持ちになる。

その批判は重要なポイントがずれており、本当に、このような悪徳業者を減らしていきたいなら、無意味な批判を繰り返した所で、何も変わることはない、ということを、多くの人が理解するべきではないか、そう感じたのである。

まず、原価3000円の商品を5万で売りつけた、という批判だが、誤解を恐れずいえば、これは少々的外れである。

原価3000円で、売価50000円ということは、原価率6%だ。細かい点は省く。

原価率6%だと?ふざけるな!と言いたくなる気持ちも分からないではない。

だが、では人気メーカの「香酢」の原価率をご存じだろうか。

実は殆ど変わらない、7~8%である。

ちなみに、健康食品の通販ビジネスにおいては、原価率が20%を超えると、事業拡大は難しいと言われている。

では、ぼろ儲けでないか、と思われるかもしれないが、そうでもない。10年前ならいざしらず、今は、健食にとって冬の時代ともいわれる。それほど、競合も製品も増えすぎて、CPA(顧客一人当たりの獲得単価)が上がってしまった。よって、健康食品の原価率が、5~15%から大きく変わることは、おそらくないだろう。

つまり、金額が大きいだけで、今回問題となった癌訴求の健康食品も、原価率は他と大差ないのだ。原価率で粗悪品を判定するなら、世の健康食品は、ほとんど粗悪品である。

批判するとしたら、そんな原価率でなければ回らないようになっている、健康食品のビジネスシステムそのものを否定すべきではないだろうか。

また、前の記事でも書いたが、健康食品というのは、基本、実験データがある、といっても、それは、試験管(細胞)レベルや、マウス(動物)レベルのエビデンスだけだ。

そんなものは、人に対する効果をまったく保証しない。どころか、逆の効果を示すこともある。これは、大手メーカーだろうと、中小だろうと、全て同じである。

最低でも、ヒトレベルの試験をしているのは、保健機能食品といわれる「トクホ」「機能性表示食品」に限られる。

だが、これも、ヒトで「ある程度、効果が期待できること」を試験しているというだけの話であり、その「ある程度」とは、専門家から言わせれば、「気休め」なのである。

あまり言いたくないが、正直、値段を考えても、分かるのではないだろうか。

残念ながら、たかだか、10円、20円高い程度のお茶に、本当に体を改善するほどの効果があるわけがないのだ。

そんなもの売るな?その通り。だから、私は退職するのである。他にも理由は、沢山あるが、正直、この理由も決して小さくはない。

健康食品は必要ない。正確には、ビタミン、ミネラルなど、食事で不足する栄養素を補助するタイプは合った方がよいが、生活習慣病の改善、ましてや癌、心筋梗塞などの三大疾患を治すような力は、健康食品にはないし、頼るべきでもない。この世に必要ない代物だ。

それが、14年ほど、その業界で働いて得た、自分なりの結論である。